尿失禁

尿失禁とは

尿失禁とは自身の意思とは関係なく尿が漏れてしまう状態で、重篤な疾患ではないものの、QOL(生活の質)を低下させてしまいます。日本ではまだ疫病検査が正確に行われていないですが、解剖学的な観点では女性の方が発症傾向にあり、特に40歳以上では10~45%の方が発症されているというデータがあります。ただし、臨床的な観点では軽微なものも含めると、もっと多くの方が発症していると言われています。タイプも様々なものがあり、それぞれ治療法も異なるので、医師による問診、検査を行い、状態を把握してから治療をスタートします。

代表的な尿失禁のタイプ

腹圧性尿失禁

症状

腹圧性尿失禁は、咳やくしゃみなどでお腹に力がかかったときに膀胱に圧力がかかり、尿が漏れ出してしまうタイプです。腹圧が上昇することで、尿道を支える組織や、尿道を閉める筋肉が弱まるために生じます。特に女性の尿失禁患者の約半分は腹圧性尿失禁によるもので、加齢や出産による経腟分娩などが原因で、骨盤底を支える筋肉である骨盤底筋群が弱まるために発症します。一方、男性は前立腺手術後に発症することが多い傾向にあります。

治療

行動療法

行動療法により高い治療効果が期待できますが、途中で治療を中断すると再発します。

生活指導

生活指導は、骨盤底への過剰な負荷を下げるために以下を中心に行います。

  • 負担のかかる激しい運動の回避
  • 排便時にいきまないように便秘の改善
  • 肥満患者に対しては減量のための指導

骨盤底筋訓練

骨盤底筋群の機能をサポートするための訓練です。
訓練は排尿の途中で尿を止めるような尿道をギュッと閉めるイメージで、効果を実感するためには1~3ヶ月間、訓練を継続して行って頂きます。途中で中断してしまうと、再発する可能性があるので注意が必要です、
YouTubeなどの動画サイトでも多数動画が挙げられており、動画を見ながら行うと良いでしょう。
基本的には、骨盤底筋訓練は自分自身でトレーニングするものですが、効果が感じられない方、正しくできていない方、継続するのが困難な方は、当院にはスターフォーマープロという最新式の医療機器によるトレーニング方法もございます。

訓練の流れ
  1. 仰向けで横になって頂き、両足を肩幅くらいに開いて軽く立ててください。
  2. 尿道や肛門、膣をギュッと閉めたり緩めたりといった運動を2~3回繰り返してください。
  3. ②が終わったら、ゆっくりギュッと閉めた状態で5秒ほど静止し、ゆっくり緩めていきます。この動きを2~3回繰り返します。

1日5秒閉めて、10秒緩める動きを10回しましょう。
10回を1セットとし、1日10セット以上を3ヶ月以上継続してください。

薬物療法

β2アドレナリン作動薬などで尿道を閉鎖する力を改善します。

手術療法

行動療法、薬物療法で効果が出なかった場合には、
尿道スリング手術(TVT手術、TOT手術)などを検討し、施術を受けられる病院に
紹介致します。また男性で前立腺手術を受けた後に起こる重度の尿失禁については、
人工尿道括約筋(AMS800)埋め込み術を検討します。

切迫性尿失禁

症状

切迫性尿失禁は、突然我慢できないくらいの尿意を感じ、トイレに間に合わずに漏らしてしまうようなタイプです。過活動膀胱が原因となり、膀胱が一時的に過剰に収縮してしまうことで生じます。男性の場合は前立腺肥大症と併発することがあります。
尿失禁患者の約20%が切迫性尿失禁とされています。

治療

膀胱訓練

過活動膀胱による過剰な膀胱収縮は1~2分程度しか継続しなく、膀胱訓練では排尿後1時間以内に尿意を感じた場合に2~5分程度排尿を我慢して頂きます。そうすることでほとんどの場合、尿意が落ち着きますが、改善しない場合は排尿してもらって大丈夫です。目標として、生活に支障のない2~3時間程我慢できることを目指しましょう。

骨盤底筋訓練

骨盤底筋訓練は腹圧性尿失禁以外に切迫性尿失禁にも効果が期待でき、骨盤底筋を収縮させる動きで反射的に膀胱収縮も抑制できるとされています。

薬物療法

切迫性尿失禁の治療の中心は薬物療法で、主に以下の薬を使用します。

抗コリン薬(トビエース・ベシケアなど)

抗コリン薬は膀胱の過剰な収縮を抑える効果が期待できます。
副作用で便秘、排尿困難、口内乾燥が生じることがあります。

β₃アドレナリン受容体刺激薬(ベオーバ・ベタニス)

β₃アドレナリン受容体刺激薬は膀胱筋肉を緩め、膀胱内の尿量を増加させることが期待できます。
副作用は他の薬と比べ、少ないとされています。

α1遮断薬(ユリーフ・ハルナールなど)

残尿感や尿の勢いが弱いなどの症状が伴う男性は前立腺肥大症の可能性があるので、α1遮断薬で改善効果が期待できます。改善が見られない場合は、他の2つの薬を併用することもあります。

溢流性尿失禁

症状

溢流性尿失禁は、絶えずチョロチョロと漏れる状態で有り、慢性的な尿閉状態で起こります。お風呂にお湯を汲んでいる状態で風呂が満タンになっても蛇口からお湯が出ているとお風呂から溢れたお湯が流れ出すようなイメージです。膀胱機能低下や前立腺肥大症による慢性的な尿閉によって起こります。膀胱内の尿量が増加し、腎機能障害や尿路感染症などの併発していることもあります。

治療

慢性的におしっこが出しきれない尿閉という状態を改善するために、尿道カテーテルを留置します。原因について精査したのち、前立腺肥大症の手術や、自己導尿の指導、定期的な
尿道カテーテル交換などを行います。

機能性尿失禁

症状

機能性尿失禁は、身体機能障害や低下によってトイレに行こうとするも移動が遅いために間に合わず失禁してしまうタイプで、尿道や膀胱に問題はありません。

治療

このタイプは治療困難なケースが多く、高齢化社会と言われ®現代では発症することが多いです。主な治療は身体機能向上のためのリハビリになります。また、オムツを履いて頂きつつ、うまく付き合っていくのも一つの方法です。

混合性尿失禁

混合性尿失禁は腹圧性尿失禁と切迫性尿失禁が併発しているタイプで、女性の尿失禁患者の約30%がこのタイプとされています。

治療

尿失禁の原因に基づき治療を行います。腹圧性尿失禁の症状が強いケースでは、薬物療法や行動療法を実施し、改善が見られない場合は手術療法を検討します。
一方、切迫性尿失禁の症状が強いケースでは、薬物療法を中心とした治療を実施します。

尿失禁の主な検査

問診

問診では、尿の失禁量や頻度、失禁時の状況を確認します。問診のみである程度のタイプの絞り込みが可能なので、恥ずかしく感じるとは思いますが、具体的に症状を教えてください。

検尿

検尿で、尿路結石や尿路悪性腫瘍での血尿、尿路感染症などの似た症状を引き起こす疾患の有無を確認します。

残尿検査

排尿後の残尿量を検査します。

その他

その他に疾患が併発している可能性がある場合は、必要に応じて追加で検査を実施します。

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